蒸気発生器伝熱管破損事故
「もんじゅ」では、冷却材として液体金属ナトリウムを使用していることから、蒸気発生器で伝熱管が破損してナトリウム-水反応が発生しても放射性物質の放出につながることのないよう、原子炉冷却系(1次冷却系)と水・蒸気系との間に中間冷却系(2次冷却系)を設けている。更に、原子炉出力運転中に何らかの原因で蒸気発生器の伝熱管が破損し、ナトリウム-水反応による顕著な圧力上昇が生じるような大規模な水漏えい事故が起こったとしても、ナトリウム-水反応生成物収納設備に圧力が開放されることにより2次主冷却系内の圧力上昇は抑制され、蒸気発生器内部保有水・蒸気のブロー等のプラント自動停止操作により、ナトリウム-水反応現象は速やかに停止されることになる。
安全審査では、「蒸気発生器伝熱管破損事故」の際に発生する圧力により蒸気発生器(蒸発器、過熱器)、2次主冷却系機器・配管、及び中間熱交換器等の設備の健全性が損なわれないこと、すなわち、2次系ナトリウムを内包する機器・配管の破損が生じないことが確認された。特に原子炉冷却材バウンダリを構成する中間熱交換器破損が生じないことの確認が行われた。事故評価での解析条件として、初期スパイク圧評価には伝熱管1本の瞬時両端完全破断を、また準定常圧評価にはウェステージ型の破損伝播を考慮して伝熱管4本の両端完全破断相当の水漏えいを仮定し、ナトリウム-水反応によって発生する圧力をそれぞれ評価した結果、蒸気発生器、2次主冷却系機器・配管及び中間熱交換器の歪みは塑性歪みにも至らず、各設備の健全性が損なわれることはないことを確認している。
判決は、高温ラプチャの発生を防止する上で、水漏えい検出系や急速ブロー系が必ずしも有効ではなく、その上急速ブロー系機器の単一故障を考慮すれば、高温ラプチャの発生は避けられないと結論付けている。しかし、蒸発器カバーガス圧力計による水漏えい信号は、蒸発器、過熱器いずれの水漏えいに対しても余裕をもって高温ラプチャを防止することができる上、ナトリウム中水素計も高温ラプチャの防止には十分有効性を発揮できる。また急速ブロー系の有効性も海外情報や国内データの内容を正しく理解すれば明白であることから、高温ラプチャが現実に起こる懸念はない。
水漏えい検出設備や急速ブロー系の機器は、「蒸気発生器伝熱管破損事故」による影響を緩和するための装置であり、原子炉の「止める」「冷やす」「閉じ込める」に係る装置ではないことから、事故評価において単一故障を仮定する必要のある機器ではない。
後述の4.(2)で述べるとおり、高温ラプチャの発生を想定しても、炉心崩壊に至るものでないことはもちろん、ナトリウム-水反応の影響によって中間熱交換器の健全性が損なわれることはなく、炉心冷却への直接的な影響を与えることはない。判決は、高温ラプチャが起こると中間熱交換器が破損し炉心の冷却に直接影響が及ぶとの誤解の下で、ブロー弁の単一故障の想定が必要としたものと考えられる。
<ポイント1-1:水漏えい検出系の有効性について>
- 判決の内容
① ナトリウム中水素計によって水漏えいを検知する前に破損伝播が始まる可能性があり、ナトリウム中水素計は水漏えいの早期検出には必ずしも有効ではない。[判決264ページ(以下P.264と示す。)]
② 運転状態が40%給水及び10%給水の場合、累積損傷和は限りなく1に近いことから、カバーガス圧力計でも高温ラプチャまでの時間余裕はきわめて小さく、水漏えい検知システムとして万全とは到底認められない。[P.265]
③ 過熱器においてはカバーガス圧力計による水漏えい検出機能は期待されていないことから、高温ラプチャの発生を防止できない。[P.265]
- 事実関係と判決の問題点
① 蒸気発生器伝熱管からの水漏えいが、条件によってはナトリウム中水素計による水漏えい検出より先に最初の隣接伝熱管への破損伝播を引き起こす可能性はあるが、多くの場合、微小漏えいから始まって自己リーク孔拡大や数度の破損伝播を経て徐々に漏えいが拡大し、高温ラプチャが発生する可能性のある水漏えい規模に発展すると考えられるが、その前にナトリウム中水素計で検出できることから、ナトリウム中水素計が高温ラプチャの防止に有効性を持つものであることは明らかである*1)。
② 40%給水及び10%給水条件の場合の累積損傷和の値は1に近いが1よりは小さい。しかし、高温ラプチャの評価では、ナトリウム-水反応熱の伝熱特性、材料の高温強度特性等の評価に当たって十分裕度を見た保守的な入力条件により解析を行っていることから、累積損傷和が1に達しない限り伝熱管は破損に至ることはない。したがって、カバーガス圧力計による検出で、水・蒸気をブローすることにより高温ラプチャの発生が防止されることは解析により確認されている。
③ 過熱器における水漏えい時には、ナトリウム-水反応による蒸気発生器のナトリウム液位の変動を検出後、蒸発器と過熱器のカバーガス空間は連通されるので、過熱器内でのナトリウム-水反応による圧力上昇は、蒸発器のカバーガス圧力計による水漏えい検出は可能である。従って過熱器の水漏えいに対しても、蒸発器のカバーガス圧力計により水漏えいを検出し、水・蒸気をブローすることとしている。判決はこのシステムを全く理解しておらず、過熱器においては高温ラプチャの発生を防止できないと誤った判断を下した。
<用語解説> 累積損傷和
伝熱管の高温ラプチャ現象に対し、健全性評価の基準として用いられている累積損傷和とは、伝熱管にある一定の大きさの応力と温度とが作用した時間Aと、上記応力と温度との組み合わせが伝熱管に生じる場合にクリープにより破断に至るまでの時間Bとの比A/Bを、伝熱管中に実際に生じた大小すべての、応力と温度との組み合わせの履歴について求め、積算したものをいう。累積損傷和が1.0未満の場合には、伝熱管が破損することはない。なお、クリープとは、金属等の材料に力が加わった場合に、短時間には破断に至らなくとも、時間の経過とともに材料の変形が進行する現象をいい、一般に温度が高い程、顕著に現れる。
<ポイント1-2:急速ブロー系の有効性について>
(1) 判決の内容
① ドイツ・インターアトム社の実験において、流水管でも高温ラプチャが発生する試験結果が示されているが、同実験での伝熱管が細径管であることを理由に、太径のもんじゅ蒸気発生器伝熱管で高温ラプチャが発生しないとの主張には同意できない。[P.270]
② 急速ブローの有無が高温ラプチャ発生防止の決定的要因になるかについてはイギリスの専門家の間でも意見の分かれていることが窺われる。[P.271]
③ Run-19の実験条件はRun-16よりも緩やかであり、流水管の効果を確認したと言うSWAT-3での実験は回数と内容において不十分と言わざるを得ない。[P.272-273]
(2) 事実関係と判決の問題点
① インターアトム社の実験において、流水管が大きく破損した。しかしながら、同実験で用いられた伝熱管は肉厚わずか2mmの小口径管であり、ウェステージによる減肉が進行した結果、薄肉部が開口すると言う典型的なウェステージ先行型のラプチャ破損である。判決は伝熱管の口径の違いによる高温ラプチャ発生への影響はないとしているが、ウェステージによる減肉量が同等であれば、薄肉の小口径管では破損伝播が相対的に早まる*2)という事実を認識していない。
② イギリスのPFRでの急速ブロー有効性については、事故直後様々な見解があったが、PFR炉では最終的に急速ブローの有効性を結論付けた上で、事故後過熱器への急速ブロー弁の設置等を行い、運転を再開している*3)。急速ブローの有効性についての判決は、PFR炉の所有者が行った事故調査報告の最終的な結論をあえて採用せず、事故原因確定以前の一見解に基づく控訴人側の主張を採用したものである。
③ サイクル機構で行われた蒸気発生器安全性総合試験装置(SWAT-3)のRun-16試験(S56年)及びRun-19試験(S60年)では、反応域温度やガス加圧管の破損挙動より、高温ラプチャの発生しやすい条件が同様に成立していたと考えられる*4)。したがってRun-16で静止水管及びガス加圧管が破損したにもかかわらずRun-19の流水管が破損しなかったのは、管内冷却効果の違いによるものと判断できる。
<ポイント1-3:単一故障の想定の必要性について>
(1) 判決の内容
① 「蒸気発生器伝熱管破損事故」については、安全評価指針が「事故」の解析に当たって考慮すべき事項としている単一故障の仮定が行われているとは認められず、解析の結果が最も厳しくなる急速ブロー系機器の故障を仮定すべきであった。[P.279]
② 「単一故障」として急速ブロー系機器の故障を仮定すれば、高温ラプチャの発生はほぼ避けられないと言える。[P.279]
(2) 事実関係と判決の問題点
① 「蒸気発生器伝熱管破損事故」解析において、2次主冷却系循環ポンプのトリップ以降の事象の推移が運転時の異常な過渡変化における「2次冷却材流量減少」解析と同様であることから、「蒸気発生器伝熱管破損事故」の解析条件には単一故障の記載がない。なお、「2次冷却材流量減少」の解析では、健全系統のポンプポニーモータ引継ぎ失敗を単一故障として仮定している。
② 単一故障は、原子炉停止、炉心冷却、放射能閉じ込めの各安全機能別に、解析結果を最も厳しくする機器の単一故障を仮定することを求めているものである。
水漏えい検出設備や急速ブロー系の機器は、「蒸気発生器伝熱管破損事故」による影響を緩和するための装置であり、原子炉の「止める」「冷やす」「閉じ込める」に係る装置ではないことから、事故評価において単一故障を仮定する必要のある機器ではない。
後述の4.(2)で述べるとおり、高温ラプチャの発生を想定しても、炉心崩壊に至るものでないことはもちろん、ナトリウム-水反応の影響によって中間熱交換器の健全性が損なわれることはなく、炉心冷却への直接的な影響を与えることはない。判決は、高温ラプチャが起こると中間熱交換器が破損し炉心の冷却に直接影響が及ぶとの誤解の下で、ブロー弁の単一故障の想定が必要としたものと考えられる。
<ポイント1-4:保安院指示の内容について>
(1) 判決の内容
① 原子力安全・保安院は、圧力開放板検出器での検出による場合、高温ラプチャが発生する判断基準を上まわる結果と評価されたとして、本件変更許可申請書の補正を指導し、本件申請者もこれに従っている。このことは、要するに、圧力上昇の検出が遅い圧力開放板開放検出器を基準とすれば、高温ラプチャの発生を防止できないということである。
以上のことは、要するに、圧力上昇の検出が遅い圧力開放板開放検出器を基準とすれば、高温ラプチャの発生を防止できないということであり、この点において、被控訴人の主張は根拠を失ったものというべきである。[P.264-265]
(2) 事実関係と判決の問題点
① 原子力安全・保安院の指導文書を受けて、申請者は、平成13年(2001年)12月、本件変更許可申請書の補正を行っている。
ただし、この原子力安全・保安院の指導は、「もんじゅに当初から設置されている蒸気発生器計装のうちカバーガス圧力計による初期水リークの確実な検出が高温ラプチャ発生防止のうえで重要と判断し、もんじゅの安全性総点検報告への対応の一環として、この点を念のため設置許可申請書において明確にすることが適当と判断した。」ために行ったものである。
圧力開放板開放検出器とカバーガス圧力計は、ともに「もんじゅ」に当初から設置されているナトリウム-水反応の検出器であり、カバーガス圧力計で検出することの重要性が増したとしても、「検出器で検出する」ということ自体には何ら変更はない。従って、指導文書発出の前後で、「ナトリウム-水反応が発生した場合、検出器で検出して、水・蒸気を排出する」という基本的設計方針に変更があったわけではないことから、指導文書の発出が当初許可時の安全審査の誤りを示すものだとの指摘は当たらない。
(3) 参考
1) 過去の海外の事故事例からも、初めから漏えい率kg/sを超えるような水漏えいが発生することは考えにくく、初期の微小または小規模の水漏えいが自己拡大やウェステージ型破損伝播を繰り返しつつ、徐々に中~大規模漏えいに発展していくものと考えられる。従って小規模漏えいから、高温ラプチャの可能性が相対的に高い領域(~2kg/s)に至るには、数回のウェステージ型破損伝播を経過する必要があり、少なくとも百秒程度以上の時間を要すると考えられる。一方、ナトリウム中水素計は小規模以上の漏えい(g/s以上)に対しては遅くとも約1分で水漏えいを検出することができることから、破損伝播途中に水漏えいを検出することは十分可能である。
過去の事故例を見ても、大規模な水漏えいには小規模の漏えいが先行し、規模の増大にはかなりの時間を要することが分かっている。
① 1962年の米国フェルミ炉の事故では、小規模な水漏えいによる水素濃度の上昇開始から約40分経過した後、圧力開放板が開放したことが報告されている[1]。
② 1982~1983年にフランス・フェニックス炉の再熱器で4回発生した水漏えいでは、いずれも水素計による検出でプラントを停止したが、隣接伝熱管の2次破損に至った2ケースでも、平均水漏えい率は20g/sと推定されている[2]。
③ 1987年にイギリスのPFR過熱器で発生した事故では、内筒に残っていたウェステージの痕跡から、大規模漏えいに発展する以前に小規模な水漏えいが数時間(水漏えい率~0.01g/sの場合)から2、3分(水漏えい率1g/sの場合)継続していたことが知られている。しかし、PFR事故時には水素計は故障しており機能していなかった[3]。(もんじゅのナトリウム中水素計は、0.01g/s及び1g/sの水漏えいに対して、それぞれ約1時間及び約1分で検出する能力を有していることから、これらの水漏えい検出には十分有効であると考えられる。)
2) 判決が高温ラプチャ型であると認定したインターアトム社の実験(No.7)で用いられた伝熱管の肉厚はわずか2mm[4]であり、この実験結果から、一般的に流水管でも(短時間に多数の伝熱管が破損するという)高温ラプチャが起こるとの判断を下すことは早計である。判決は伝熱管の口径の違いによる高温ラプチャ発生への影響はないとしているが、小口径管と大口径管とでは肉厚が異なり、ウェステージによる減肉量が同等であれば、下図に示すとおり、小口径管では残存肉厚に対する応力が大口径管に比べて大きくなるので、内圧に起因する残存肉厚に対する1次応力の増加が顕著となる結果、破損伝播が相対的に早まることになる(下の評価では、減肉速度として、ともに中規模漏えい時の最大ウェステージ率0.07mm/sを使用した。)
3) PFR炉の所有者であるAEA社の専門家がNuclear Energy誌に記載した最終報告書[3](1992年)によれば、同社は最終的に急速ブローの有効性を結論付けたうえで、事故後運転再開に先立って、水素計及び蒸発器カバーガス圧力計の自動トリップ系への組み込みと過熱器への急速ブロー弁の設置を行っている。
4) Run-16とRun-19の試験条件を次表に以下に示す。
・ ナトリウム温度が高い方が高温ラプチャの発生にとって厳しいと考えられるが、Run-19ではRun-16より119℃高い459℃となっている。
・ 注水時間については、流水管を配置した関係で水加熱器圧力の降下が早いことが予想され、Run-16の約半分としたが、カバーガス圧力計による水漏えい検出時間(20秒以内)を考慮すれば、注水時間として十分と判断される。
なお、初期水漏えい率及び総注水量は他の条件により従属的に決まる条件である。
以上のとおり、Run-19の実験条件が十分でないとの指摘は当たらない。
表 Run-16及びRun-19試験の主な条件比較
|
条 件 |
単位 |
Run-16 |
Run-19 |
備 考 |
|
注水ノズル孔径 |
mmΦ |
10 |
10 |
同一孔径を選定 |
|
水加熱器圧力 |
MPa |
15.0 |
15.9 |
0.9MPa高く設定 |
|
ナトリウム温度 |
℃ |
340 |
459 |
119℃高い条件に設定 |
|
注水時間 |
s |
60 |
32 |
カバーガス圧力計での検出時間を考慮すれば、30秒で十分 |
|
初期水漏えい率 |
kg/s |
2.20 |
1.85 |
同一孔径として水加熱器圧力を高めたが、ナトリウム温度が上がった分入熱により蒸気比重量が低下し、水漏えい率は低下。 |
|
総注水量 |
kg |
228(132) |
61 |
228kgは2次破損分を入れたもの |
参考文献 [1] JNC TJ254 76-01「高速増殖炉蒸気発生器の安全性信頼性向上に関する調査研究」機械学会・ナトリウム加熱蒸気発生器調査研究分科会 (1976.5) [2] J. Alanche, et al., “Phenix Steam Generator Na/H2O Reaction Incidents,”IAEA/IWGFR 専門家会議報告(1990.9) [3] A.M. Judd et al., “The Under-Sodium Leak in the PFR Superheater 2, February 1987,”Nuclear Energy 1992, 31, No.3 [4] JNC TN9600 89-005「海外出張報告:ATG8/日本ナトリウム-水反応専門家会議」(1989.6) <ポイント2:高温ラプチャの審査の有無> ① 蒸気発生器伝熱管破損事故の解析条件として、準定常圧評価に破損伝播を考慮して、伝熱管4本の両端完全破断相当の水漏えいを想定したが、許可申請書には高温ラプチャに関する記述は一切見当たらない。[P.257] 科学技術庁が作成した安全審査書案にも、原子力安全委員会が内閣総理大臣に出した答申にも、高温ラプチャに言及したところはない。[P.258] ② 申請者より、高温ラプチャの発生(SWAT-3 Run-16)を含む試験結果が科学技術庁に報告されたのは、許可処分後の平成6年である。[P.258] ③ 審査に関わった佐藤証人の証言によれば、科学技術庁も安全委員会も、高温ラプチャによる破損伝播が生じるかもしれないとの観点、メカニズムの知見自体を欠いていた疑いがある。[P.259] ④ 斎藤証言が、審査当時科技庁が高温ラプチャが生じないことを確認していたと言う趣旨なら、到底措信できない。[P.259] ⑤ 本件安全審査においては、蒸気発生器伝熱管破損事故の安全評価につき、高温ラプチャによる破損伝播の可能性の調査審議及び判断を欠落したと言うべきである。[P.260] 判決は、審査書等に高温ラプチャへの言及がないことや証人の証言などを根拠に、安全審査において高温ラプチャによる破損伝播の可能性の判断が欠落していたと結論づけているが、当時研究者の間で破損伝播のメカニズムとして一般現象的としては過熱内圧ラプチャ型を考えうるが現実問題としては考慮の必要がないという認識があったことから、審査に当たっても同様の前提でなされたものであり、文言の記載の無いことが審査での判断の欠落に当たるものではない。 ① 内部加圧された配管・容器が一定温度以上に加熱されれば、材料の機械強度が低下して破損に至る恐れがあるというのは構造材料の分野では一般常識である。また、当時高速炉開発に携わる学会等の研究者の間では、蒸気発生器伝熱管破損伝播のメカニズムとして、現象的にはウェステージ型破損とともに高温ラプチャ型破損が考えられるものの現実的には後者は防止できるという認識があった*1)。さらに安全審査以前に行われたSWAT-3大リーク試験等の国内実験*2)や米国LLTR実験の情報から、実機を模擬した実験では高温ラプチャ型破損が発生していないという実験結果も知られており、これらに基づいて、実機で伝熱管水漏えいが発生しても、カバーガス圧力計等により早期に水漏えい検出がなされ、急速ブロー系により伝熱管内の水・蒸気が速やかに減圧されることから、実機条件では高温ラプチャが起こることはないと判断された。 上述のとおり、「蒸気発生器伝熱管破損事故」の評価においては、水漏えい対策設備が設置されていることにより高温ラプチャ型の破損伝播は考慮する必要がないという判断に基づいて解析条件(準定常圧用としてウェステージ型破損伝播を考慮した伝熱管4本の両端完全破断相当の水漏えい)が設定されたものであり、判決が、審査書案や答申に高温ラプチャの記載が無いことをもって判断が欠落したと見るのは事実誤認である。裁判所において、このような重要な認定を行うに際しては、国側に対して事実確認を求めてしかるべきであった。 ② SWAT-3の高温ラプチャ試験Run-16では多数のガス加圧管が高温ラプチャにより破損したが、この試験は伝熱管内の水流動を全く無視する等の過度に保守的な試験条件の結果であることから、Run-16試験の結果が、蒸気発生器伝熱管破損事故評価の準定常圧用解析条件に影響を与えるようなものではないと設置者が判断し、科学技術庁及び原子力安全委員会等への報告は行わなかったものである。なお、安全審査後に行ったRun-19試験で、管内冷却効果を模擬すると高温ラプチャ型破損が発生しないことが確認されている。 ③ 佐藤証人の証言に関する判決は証言内容を正確にとらえたものではない。佐藤証人の証言は、「自分は高速炉が必ずしも専門ではないので知らなかった。他の委員は知っていたかも知れない。」*3)と述べたもの。 一人の委員が不知であったからとして、原子力安全委員会全体に高温ラプチャについての認識がなかったと断定するのは短絡的である。当時の公開の技術レポートによれば、十分知り得る知見である。 ④ SWAT-3大リーク試験(Run-1~7)においてガス加圧された隣接管の破損が全くなかったことや小・中リーク試験における破損伝播のメカニズムがウェステージであることは、安全審査時に科技庁へ報告されている。よって斎藤証人は、SWAT-3大リーク試験等の知見に基いて、実機条件では高温ラプチャが生じないことを確認したと述べたものである。 ⑤ 上記①~④で述べたとおり、高温ラプチャによる破損伝播については、設置許可に関する安全審査を行った当時でも関係者に認知されていたことは明らかであり、調査審議及び判断に問題はなかった。 (3)参考 1) 機械学会が、サイクル機構の委託を受けて昭和52~54年度に行った「Na加熱大型蒸気発生器の水漏洩対策調査研究」からは、伝熱管破損伝播のメカニズムについて次のように考察した経緯が読み取れる。 ① S53年度報告書「〃調査研究[2]」(TJ254 79-01; 1979年3月) 破損伝播シナリオとして、小・中規模漏えいでのウェステージとともに、中規模から大規模への過渡事象として、ウェステージを伴うターゲット管過熱によるラプチャが示されており(図1・2・2-1(添付図1)参照)、「大規模漏えいに至る直接の原因として考えられるものであるが、実験的には確かめられていない」とされている(報告書p.8)。 ② S54年度報告書「〃調査研究[3」」(TJ254 80-01; 1980年3月) 前年度の報告書で提案された事故シナリオに修正を加える中で、中リーク時隣接伝熱管の1次元伝熱モデルによる温度評価を行った結果、内圧によって発生する応力が引っ張り強さ又は0.2%耐力を十分下回っており、伝熱管は十分な強度を有していることから、過熱による内圧ラプチャはほとんど起こらないと結論し、シナリオ図(図2・3・1-1(添付図2)参照)から過熱内圧ラプチャの過程を削除した(報告書p.111~115)。 以上の記載より、当時のFBR開発に携わる学会や産業界からの研究者が多数参加した研究会において、蒸気発生器伝熱管破損伝播のメカニズムとして、過熱型内圧ラプチャ(高温ラプチャ)についてもウェステージ型破損とともに同等に検討を加えた上で、伝熱管材料強度評価を行った上で高温ラプチャが現実的には起こらないとしてシナリオから削除したことが分かる。 2) SWAT-3大リーク試験結果については、Run-1からRun-5までの結果が以下の資料で公表されていた。 ・動力炉技報No.25 「SWAT-3試験装置による大リーク・ナトリウム-水反応試験の概要」(1978.2) <ポイント3:高温ラプチャが発生した場合の炉心への影響の有無> ① 4本完全破断相当の水漏えいを想定した事故解析では、蒸気発生器及び中間熱交換器の健全性に影響を与えないとされているが、これはウェステージ型破損伝播を前提としたものであり、高温ラプチャの発生を考えれば、水漏えい量は桁違いに大きくなり違った結果となるのは明らかである。[P.281] ② 伝熱管破損による発生圧力が蒸気発生器、配管及び中間熱交換器の耐圧基準を超えれば、機器・配管が毀損する恐れがある。[P.283] ③ 蒸気発生器伝熱管破損で発生した水素ガスが、その圧力上昇により中間熱交換器伝熱管壁を破って炉心に至れば、出力の異常な上昇と制御不能を招き、炉心崩壊を起こす恐れがある。[P.284-285] ④ そこまで至らずとも、中間熱交換器が破損すれば、汚染された1次系ナトリウムが2次系に流入することも考えられる。[P.285-286] ⑤ 以上より、「蒸気発生器伝熱管破損事故」の評価に関する安全審査には看過し難い過誤、欠落が認められ、その結果、本件原子炉施設においては放射性物質の外部環境への放出の具体的危険性を否定することができず、本件許可処分は無効というべき。[P.286] 判決では、高温ラプチャの発生を前提に炉心崩壊や放射性物質の外部環境への放出の恐れがあるとしている。しかしながら、もんじゅでは蒸気発生器での事故が炉心に影響を与えることがないように中間冷却系が設けられており、仮に高温ラプチャが発生すると考えても、中間熱交換器の存在やプラント自動停止系の機能により、炉心が影響を受けることはない。 ① 「蒸気発生器伝熱管破損事故」の解析では、水漏えいに伴うナトリウム-水反応により発生する初期スパイク圧及び準定常圧に対して、それぞれ発生する応力が蒸気発生器、2次主冷却系配管及び中間熱交換器の許容応力を超えないことが確認されている*1)。なお高温ラプチャが発生する条件が発生したとしても、高温ラプチャにより数本の伝熱管が破損すれば大量の水・蒸気が漏えいし、圧力開放板が開放され、伝熱管の内部の水・蒸気が排出されるから事態は収束する。高温ラプチャにより多数本の伝熱管が破損するためには、それらの伝熱管がほぼ同時に破損する必要があるが、そのような事態は考えられない。したがって、「もんじゅ」においては、仮に高温ラプチャが発生する条件が発生したとしても、それにより破損する伝熱管は数本のオーダーにとどまるものと考えられ、発生圧力が著しく高くなることはない*2)。 ② さらに、中間熱交換器及び2次主冷却系の機器・配管が耐えられる圧力は、これらの機器・配管で設定している通常運転時の最高使用圧力と比べ相当大きいことが確認されている。設置許可申請当時に伝熱管破断本数をパラメータとして行った準定常圧解析では、伝熱管15本の両端完全破断によるナトリウム-水反応により発生する圧力上昇を想定してもこれら機器・配管の許容応力までは十分余裕があり、ナトリウムを内包する壁が破損しないとの結果が得られている*3)。 ③ 蒸気発生器で大規模な水漏えいが発生した場合には、蒸気発生器内の圧力上昇をとらえカバーガス圧力計圧力高信号及び圧力開放板開放検出信号を発報し、その後の一連のプラント自動停止操作により、2次系及び1次系のポンプが停止するとともに、炉心では直ちに制御棒が挿入されて原子炉は停止される。 ④ 本件原子炉施設では、一連のプラント自動停止操作の一環として、蒸気発生器入口及び出口ナトリウム弁も閉止されることから、蒸気発生器は2次主冷却系から隔離される。また、2次冷却材の圧力を1次冷却材の圧力より高くすることとしているので、1次冷却材が2次系に流入することはない。 ⑤ 以上のとおり、実際に中間熱交換器等の機器・配管が耐えられる圧力は、これらの最高使用圧力と比べ十分大きいことから、高温ラプチャの発生を仮定したとしても、中間熱交換器の原子炉冷却材バウンダリが破損することはない*4)。また仮にその破損を想定しても、圧力開放板開放信号に続く一連のプラント自動停止操作*5)により2次系及び1次系の主循環ポンプはトリップして停止することから、蒸気発生器内で発生した水素気泡が炉心に到達することはない。さらに仮に水素が炉心に到達したとしても、既に炉心には制御棒が挿入され(しかも制御棒は独立2系統が備えられている)て、核的に停止して未臨界状態に保たれることから、出力上昇は起こらず炉心崩壊の恐れはない。 したがって、蒸気発生器伝熱管破損事故において、原子炉格納容器内の放射性物質の外部環境への放出の具体的危険性を否定することができないとの結論は、何ら具体的な証拠に基づくものでもなく、重大な判断の誤りと言える。 (3) 参考 1) 「蒸気発生器伝熱管破損事故」の解析では、水漏えいに伴うナトリウム-水反応により発生する初期スパイク圧及び準定常圧を求めた上で、それぞれ発生する応力が蒸気発生器、2次主冷却系配管及び中間熱交換器の許容応力を超えないことを確認している。 なお、設置許可申請書に許容応力は記載されていないが、これは、申請書記載の以下の設備仕様等に基づき容易に算定されるものである。 ① 中間熱交換器 ・主要材料 オーステナイト系ステンレス鋼 ・伝熱管外径×肉厚 約22mm×約1.2mm ② 蒸発器 ・主要材料 低合金鋼(クロムモリブデン鋼) ・胴外径 約3m ③ 過熱器 ・主要材料 オーステナイト系ステンレス鋼 ・胴外径 約3m ④ 2次主冷却系配管 ・主要材料 オーステナイト系ステンレス鋼 ・外径×肉厚 約0.56m×約9.5mm 2) 過去の知見から、高温ラプチャ型破損が発生しやすいのは、小規模でも大規模でもない2kg/s前後の狭い範囲の水漏えい規模に限定されることが知られている。注水率0.57kg/s(SWAT-3 Run-10)から4.5kg/s(SWAT-3 Run-17の2次リーク)までの範囲のナトリウム-水反応実験データによれば、注水開始から32秒までの間に1000℃及び1100℃を超えるような高温領域に数秒以上さらされる伝熱管の延べ本数はそれぞれ最大16本及び4本にとどまっている。仮に高温ラプチャが発生する場合には、これらの伝熱管の中で最も厳しい温度条件に曝されている4本が破損することになる。高温ラプチャが発生した場合には、水漏えい率は伝熱管1本破断相当となり、一挙に大漏えい規模に達して圧力開放板が開放し、水素ガスはナトリウムや反応生成物とともに反応生成物収納設備に放出される。この間、高温反応界面は急速に移動して温度場が変化し、特定の伝熱管の連続的な過熱が継続しなくなるため、その他の伝熱管の高温ラプチャは極めて発生しにくい状況となる。従って、高温ラプチャで破損する伝熱管本数は極めて限定的で、伝熱管破損事故評価の入力条件として用いたものと同等程度と考えられ、ウェステージ型破損と比べて水漏えい量が桁違いに大きくなることはない。
3) 更に、JNCの解析によれば、伝熱管の多数本破断を想定した準定常圧解析に基づいて再評価した概略検討結果では、中間熱交換器の原子炉冷却材バウンダリは設計基準水漏えい率の約10倍に対しても破損しないことが確認されている。 4) なお、判決では、「中間熱交換器の破損は決して非現実的な出来事とは言えない。イギリスのPFR事故につき、・・・中間熱交換器破損の可能性は専門家も指摘しているところである。[P.284]」と控訴人側の主張が取り上げられているが、英国AEAが発表した最終事故報告書では、「PFRの蒸発器、過熱器及び再熱器それぞれに対して、伝熱管全数の破損まで考慮したとしても、中間熱交換器を破損させることはないことが示されている。」と記載されており、現実には中間熱交換器破損の可能性はなかったことが確認されている。 5) 水素到達距離については、仮に中間熱交換器の破損を仮定しても、通常のポンプによる配管内の流れに乗って炉心に到達するまでに約40秒かかると考えられる。これに対し、水漏えい検出から1次ポンプトリップまでに数秒を要するに過ぎない。


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